62の(2).小さな店でひやかしやすい商品空間を創造する(和菓子・追分だんご本舗)※1986年当時
こんにちは。
「店員空間の狭い接触型店」は、下のイラストのような構造の店のことです。
この構造の店は、初めから購入することが決定している客にとっては、わかりやすい商品空間であり、なおかつ店員から直ぐに接客を受けやすい構造の店です。
しかし、買う気がないが、いろいろな商品空間を眺めて楽しみたいとか、いろいろな店を比較検討してみたいと思う客にとっては、直ぐ目に前の店員が気になって、気軽にはひやかしにくい商品空間です。
少しでも多くの客に眺めたり検討したりして欲しいと願う店員(店側)は、多少でも注意や興味を引きつけそうな商品空間の陳列方法に趣向を凝らしています。
つまり、客はできるだけ多くの店の商品空間を眺めて歩きたいと願い、店員(店側)もまたできるだけ多くの客に商品空間を眺めて欲しいと願っているのです。
にもかかわらず、大抵の店の商品空間は、客にとって自由にひやかせる状況にはなっていません。
店員がじっと立って待ち構えたり、直ぐに「いらっしゃいませ!」と声かけたりすることによって、「なわばり」主張の店員のアクションとなり、客を遠ざけているためです。
できるだけ多くの客に商品空間をひやかしてもらうには、接客中か作業中の「なわばり」解除の店員のアクションが不可欠です。
そして一人でも店頭にひやかし客が確保されると、その客が「サクラパワー」を発揮して、よりいっそうひやかしやすい商品空間となるのです。
以上のことを考慮しつつ、「62の(1).小さな店でひやかしやすい商品空間を創造する(和菓子・追分だんご本舗)※1986年当時」をお読みください。
(なお、本文は1986年初版の拙著「入りやすい店売れる店」の原文のままです)
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62の(2).小さな店でひやかしやすい商品空間を創造する(和菓子・追分だんご本舗)
◆商品空間に集中した店づくりがなわばりを解く
この店は、店名のとおり、だんごを主体とした和生菓子を中心に販売しています。
一部に贈答品をおいていますが、これはあくまで補助的なものにすぎません。
この店の商品は多くの人が古くから親しんできたもので、決して目新しいものではありませんし、事実、この売り場の他の店にも、同じような商品を扱っているところがあります。
さて、この店の商品空間を見てみると、おもしろいことに気づきます。
この店のケースには棚が一段もはいっていません。
たいていの店では、狭いスペースの中にできるだけ多くの商品を飾ろうとするため、ケースの中に棚をつけて、商品を二段から三段に並べています。
ところがこの店のケースには棚がなく、商品は他店よりも奥行きが深いケースの床面に、平面的に並べてあります。
ケースの上の面は広いガラスになっており、客がひじをついたり、のぞきこんだりできるようになっています。
他店のケースが横から見るためのケースとするならば、この店のケースは真上から見るためのケースです。
このケースの構造自体が「近くに来て、上から商品をながめて下さい」というメッセージを客に送っています。
次にケース内の商品とひやかし安全信号を見ていきましょう。
ケース内には、様々な種類の商品がそれぞれ違った容器に盛りつけられた状態で飾られています。
ここに飾られている商品は実はすべてサンプルなのですが、瀬戸の容器に盛りつけられただんごや大福はいかにも本物らしく見えます。
この、本物の商品を使ったのでは実現できない、本物以上に本物らしい商品は強い刺激となって客をひきつけます。
さらにケースの中には季節にあわせた花や小物などが飾られ、ひやかし安全信号を発しています。
この店では、それぞれの商品を好きなように組み合わせて買うことができます。
そのため、どの商品をどれだけ買うかを決めるためには時間がかかります。
客は、ケースのつくりや商品の並べかたといったものから、「ゆっくり時間をかけて商品を見て下さい」というひやかし安全信号をうけとるので、店員がいてもあまり気にせず商品を見ることができます。
この店は非常に規模が小さいので、もとより店内装飾をする場所はあまりありません。
けれども同規模の他店に比べると、看板も表札だけで、全体に地味なイメージになっています。
このことは、客の注意を商品空間だけに集中させるためにはたいへん有効です。
商品に気をとられている客は、店員が多少のなわばり主張をしても、あまり動揺せずに商品を選び続けることができるのです。
次回、「62の(3).小さな店でひやかしやすい商品空間を創造する(和菓子・追分だんご本舗)※1986年当時」に続く。
(※以上の文章とイラストは、拙著「入りやすい店売れる店」日本経済新聞社・1986年版より抜粋したものです)
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